連作小説『狂い死のポルカ』①

 東海林源三郎は狂っていた。故に刀を持たせて貰えなかった。源三郎の家は、代代続く名士の家系である。源三郎の祖父は先の関ヶ原合戦でその名を轟かせたが歴史には残らなかった東海林定吉だ。何故、定吉は歴史に名を残すことができなかったのか。それは定吉に極度の放蕩癖があったからである。豊臣秀吉も放蕩癖があったと語られているが、定吉の場合は秀吉を遥かに凌駕する放蕩ぶりであった。であるからに定吉を語る上ではその放蕩を語る他ならず、教科書には載せることができなかったのである。サド公爵だってそうでしょう。彼の文学は後世に残すべきであるが、教科書には載っていない。定吉の息子、東海林恒吉はそんな父に抗い、清廉潔白、質実剛健に育った。恒吉は父のように東海林家の名を汚すことを恐れ、息子が産まれた暁には、その息子に対し想像を絶するスパルタ教育を施した。そうして源三郎は狂ってしまったのである。
 源三郎は五歳にして既に狂人の片鱗を見せ始めていた。団子屋の娘、お絹を撲殺してしまったのである。この事件は恒吉によって闇に葬られたのだが、城下町には源三郎はキチガイであるという噂が絶えなかった。そして、その二年後の晩春に世に有名なある事件が起こった。俗に言う、犬喰い事件である。源三郎は極度の犬嫌いで、犬を見るたびに撲殺してしまう癖があったのだが、ある日、藤原頼昌の娘である紫音が散歩している犬が源三郎に噛みついた。激怒した源三郎は、その犬を撲殺し、撲殺だけでは飽きたらず、ついにはその犬を喰ってしまったのだった。犬の名前はもちまろと言った。美味しそうな名前である。その事件も、例によって恒吉が揉み消したのだが、今回ばかりは貴族絡みの事件であったので東海林家の名前に傷がついた。とうとう、激怒した恒吉は、源三郎を山小屋に隔離し、半ば強制的に幽閉してしまったのである。そして、この物語は幽閉されている山小屋から始まる。源三郎は十歳になっていた。
 源三郎はフリージャズを聴きながら思索に耽っていた。俺は果たして狂人であるのか。世間は俺を狂人というが、俺は団子屋の娘を殺し、貴族の犬を喰っただけである。世にはもっと凄まじいことをしている輩もいるというのに、ただそれだけで狂人のレッテルを貼るとは笑止の極み。源三郎はやれやれと煙管に火を付けた。このまま山小屋に籠っていてもすることがない。古文書の書物はほとんど読んだし、世界的な名著もKindleで全部読んだ。音楽もSpotifyである程度聴いてしまったので、フリージャズという糞みたいな音楽に落ち着いてしまった。ここへ籠っているのも限界がある。源三郎は外の世界を見てみたいと思った。書物にはない、生の世界に触れたい。そして、また犬を喰ってみたいとも。源三郎は行動することを決めた。人生はアクティブに限る。俺もクラブでトリップしてみたい。そうして、源三郎は山小屋を抜け出す計画を立てたのである。

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(②に続く...)