HARDBOILED~佐藤まさあきの作品から見るハードボイルドの表現法~

近年は、あまり見なくなったハードボイルド物。葉巻のような芳香が薫るダンディズム溢れる世界観。理解されることを捨て、愚直に自身の哲学を貫徹する生き様。そして、女という生き物に横目を振らず、ベッドルームでも天井を睨み続ける。男が憧れる男の花道。それがハードボイルドなのです。
価値観の多様化した現代において、かっこよさというのもまた、多種多様なものになりました。これぞ、男!という価値はなくなり、今まさに時代はジェンダーレスな価値観を受け入れる世の中になりつつあります。それが良いのか悪いのかは、それは各々が考えればいい問題なので、ここでは言及しません。ただ、私はハードボイルドのスタイルこそが男なのだ、と思いたい。あこがれには素直でいたいのです。
私が思う、ハードボイルドとは。それは、これからご紹介する劇画を読んで頂ければ、お分かりになると思います。私の価値観を形成した素晴らしき傑作群をぜひ読んで頂き、この雑文がハードボイルドの世界への誘いとなれば幸福な次第であります。

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(『黒い傷痕の男』より)

ハードボイルドの鉄則①自分語りをしろ!

ハードボイルド物の作品の特長として、クドいくらいのポエティックなモノローグがあげられます。お前はこんなこと考えながら道を歩いているのか!などというツッコミは無粋です。ほんと粋じゃない。ハードボイルドの主人公には哲学が必要なのです。それを描写するには、人物のアクションでも良いのですが、アクションだけだと十分ではありません。主人公自身に己の哲学を語らせることで、この男は思慮深い人間だ、つまり、この男がとるアクションには哲学があるのだと思わせることができるのです。

また、物語には緩急というものが重要で、ハードボイルドという点から離れて見ても、場面の導入や転換、締めのポイントでモノローグを効果的に用いることは、物語を退屈させない要素だったりするのです。


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(『刑事くずれ』より)

ハードボイルドの鉄則②女と目を合わせるな!

劇画にはベッドシーンがよく出てきます。大人の読み物なので。ここでも違いを見せてくれるのがハードボイルド。情事の後、女は愛を確かめようと、言葉を用い男に問いかけます。しかし、男は曖昧な返事をするだけで、明確な答えは提示しません。そして、その瞳はどこか遠くを眺め、女を捉えてはいないのです。細かいシーンですが、以下のシーンはハードボイルドとは何かというものをコマ単位で知らしめてくれる非情に素晴らしく、表現力として突出したものがあると感じたシーンです。
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(『野望』より)

このような細部の表現に作家性というものが現れると考えています。

ハードボイルドの鉄則③女は感情的に描け!

ハードボイルドの男たちは常に冷静であり、少しのことでは動じない精神力を持っています。漫画は紙にペンで描いたものなので、ニュートラルに描いても冷静なのか、はたまたボンヤリさんなのか曖昧な表現になってしまいます。冷静な人物を描くにはどうすればいいか?それは冷静という性質を考えれば分かります。冷静とはつまり、周囲の事象に対して感情を乱されることなく、常に自分のペースを保つことのできる性質のことです。つまり、冷静な人物の周囲の状況を対位的描けばよいのです。環境であれば、刺激的に。人物であれば、感情的に。そうすることにより、ニュートラルに描いたものでも冷静な風に見えるのです。そして、ハードボイルドの場合、銃と車と女がメインなので、必然的に感情的な女が登場します。一見すると冷静そうな女でも、重要なポイントで感情が乱れます。そこで平然としているのがハードボイルドの男なのです。

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(『狂銃に命を賭けろ』より)

ハードボイルドの鉄則④狼狽える時も表情を変えるな!

いくらハードボイルドであっても、ごく稀に動揺することだってあります。しかし、ハードボイルド特有の動揺の仕方があるのです。それは、表情は変えずに、吹き出しで動揺している様を表す手法です。この手法は画期的で、ハードボイルドな空気を壊さずに人物が驚いている様子を描写することができます。そして、ハードボイルド最大の脆さと言いますか、その虚栄心を効果的に描くこともできます。ハードボイルドとは、あくまでも諸刃の剣であり、取り繕ったガワでしかないのです。いくら取り繕っていても、所詮は人間。辛いことがあれば辛いと思うのが正常です。しかし、最後の最後までそれに抗い、取り繕い続けるのがハードボイルドというものなのです。

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如何でしたでしょうか。ハードボイルドと一重にいっても、それは様々です。各々が思うハードボイルドがあっていいのです。今回は佐藤まさあきの作品からみた、私自身感銘を受けたハードボイルドを紹介させていただきました。

長々と駄文にお付き合い下さり、ありがとうございました。それでは、皆様もハードボイルドなライフを満喫ください。

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