佐藤まさあき論考~孤独な暴力、孤独な挑発~

佐藤まさあきという漫画家をご存知でしょうか。

かつては、さいとう・たかをなどと並び、劇画の第一人者として評されたが、その人気は長続きせず、儚げに消えていった漫画家。

漫画家には珍しいハイセンスな風貌を武器に女性にモテて、ナンパ指南本をも出版してしまうキザな男。

そして、情念溢れる作品を次々と発表し、社会を挑発してきた伝説的漫画家なのです。

今回はそんな風変わりな漫画家の魅力を語らせて頂きたいと思います。


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写真の、どことなく裕次郎にも似た風貌の男が佐藤まさあきです。

描く作品はどれも過激ですが、本人はいたって紳士的で常識人だと言われています。好青年然とした内面に秘められた、その過激さが作品の中で爆発していたのでしょうか。

僕が、初めて佐藤まさあきと出会ったのは、彼の代表作でもある『堕靡泥の星』でした。前のブログでも書いたように、その衝撃は忘れることができません。モラルというものを徹底的排除し、どこまでも悪事を描き、暴力とは悪とは何か、乱暴に社会に突きつけた作品です。そして、どこか文学的で哲学を感じる内容に僕は感銘を受けました。はっきり言って、大傑作です。ここまでの作品はもう出てこないでしょう。

かつて、表現において「暴力」というものが持て囃された時代があります。それは70年代ごろ。社会が混沌としていた時代です。若者たちは街へ繰り出し、肉体を社会にさらけ出していました。普段は部屋に籠って勉強しているような若者でも、学生運動という動乱に身を置き、社会と闘っていました。そうでない若者も、既存の価値観を破壊すべく、若者たちの文化を形成し、彼らの理念を突き通そうとしていました。70年代は、まさに肉体の時代であり、表現においてもその傾向が目立ちました。

例えば、寺山修司。彼は天井桟敷というアングラ劇団を結成し、既存の演劇とは一線を画した表現で社会を挑発しました。彼らは劇場を飛び出し、人々が行き交う街でゲリラ的に演じ、自分たちの理念を社会に突きつけたのです。

映画の世界を見ても、血気盛んな内容の作品が目立ちます。戦後生まれの価値観が成熟した時、彼らは肉体を社会にさらけ出す方法をとったのです。かつての表現者は、その思想や知識で社会に反抗しました。しかし、60年代安保の敗北により、思想だけでは社会を変えることはできないと悟ったのです。

そのような背景により、表現において暴力というものが重要な題材として描かれるようになったのだと、想像することができます。

暴力の時代、佐藤まさあきの作風は世に受け入れられました。しかし、あまりに時代にお抱えの作風だったため、その時代が移ろうと、彼の作品は時代に取り残されてしまったのです。

時代によって生まれ、そして、時代によって消えていった不運な漫画家とも言えるでしょう。

また、彼の暴力的な作風の原型として、義兄による家庭内暴力という体験、そして若くして両親を喪ったことにより、遺産相続問題に直面し、そこで感じた人間というものに対する不信感が根底にあると彼自身、語っています。暴力、悪、復讐を描き続けた作家には、それを描くだけの過去があったのです。

佐藤まさあきの魅力を考えたとき、その暴力性の他に圧倒的なエンターテイメント性を無視することはできません。その見事な構成力は明らかに同時代の作家とは一線を画していました。

例えば、銃撃戦のシーンにしても、まるで映像で見ているかのようなテンポ感にスリリングな描写は圧倒的であります。佐藤まさあきは、今の漫画家にはいない、重厚感とエンタメ性を兼ね備えた稀有なタイプの漫画家なのです。

漫画界における最大の損失は、彼のフォロワーが出てこなかったことではないでしょうか。佐藤プロというプロダクションはありましたが、彼の意思を受け継ぐ後継者はいませんでした。佐藤まさあきはあくまでも孤独な漫画家で、彼の情念は彼にしか描けなかったのでしょう。

そして、晩年。彼は死期を悟ったのか、自伝本を立て続けに出版します。その多くはかつての劇画仲間のこと、そして関係があった女性のこと。輝いていた、かつての青春を思い描き、筆を進めていたのでしょう。

余談ではありますが、彼の魅力のひとつに"文才"も挙げることができます。あとがきや、自伝を見ても分かるように、彼の文章は実に見事なものです。彼の書くあとがきは、まるで上質なエッセイのごとく美文と面白さに充ちています。佐藤まさあきの作品を手にとる際は、その文章にも着目してもらえると、より一層楽しめると思います。

漫画史を振り返ったとき、劇画のひとりとして高い確率で彼の名前が出てきます。しかし、彼個人に注目したものは極僅かです。

佐藤まさあきを忘れられた漫画家にしないためにも、このような雑文を羅列した次第です。

誰かが、このブログを見つけ、佐藤まさあきを正当に評価してもらえるきっかけになればいいなと思います。

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(まーちゃんの殺し屋ムード)